<本歌取り>
たからもの 片手袋を探す海 人には告げよ天のつりふね
<元の歌>
わたの原 八十島かけて漕ぎでぬと 人には告げよ天のつりふね
引き続き震災の歌です。あの頃言葉にならなかった思いが少しずつ口にでるようになっています。東京にいたので私は大した被害がありませんでしたが、母の郷里は小名浜です。すぐ近くまで海が押し寄せてきて、様々なものを流していきました。
あるかどうか分からない、見つかったら何かを達成するシンボルとしての片手袋を海べりで探します。その行為はほとんど祈りです。見つかってほしい、あるはずだと手袋を探します。天の釣り船が持っているはず、漕いでいる舟と見つからない片手袋。もしかしたら天にあるかもしれない、この世に有り得ないものかもしれません。なくても探す、あり得るはずと探す、この世になくても探す。密やかで小さな祈りです。祈るのに集団でなにかの教義に従う必要はありません。一人きりで自分のやり方で祈ることはできます。心が少しでも落ち着くのであれば、どのような祈りであっても良いはずです。
時間はおよその事柄を解決してくれますが、負った傷を完全に忘れさせるような効果があるかどうかはわかりません。生きていて安全に暮らし続けることの困難を最近嫌と言うほど感じます。災害は常のように起き、歯車が一つでも狂えば、この世を制御できません。
たからものでなければ代わりを買うのでしょうが、物にはその人の命やお話、思いといった記憶や人為が結びつきます。人から見て必要のない、私のたからものは山のようにあります。



